目次
- 「壁」を3つ並べて比べる
- 106万円の壁は「なくなる」方向
- 130万円の壁には、すでに使える対応策がある
- 会社ができる対応策
- 年末までに確認したいこと
- 配偶者手当の基準も見直しどき
- まとめ
「年末が近づくと、パートさんが急に休みたがる」。この季節になると、そんな悩みを聞くことが増えます。原因の多くは「年収の壁」です。一定の収入を超えると、保険料や税金の負担が生じて手取りが減るため、働く時間を調整する人が出てしまいます。ところが近年、この壁をめぐる制度は大きく動いています。2026年11月の今、何が変わり、何がまだ残っているのか。3つの壁を並べて比べながら、会社の立場でできる対応を整理してみます。
「壁」を3つ並べて比べる
年収の壁と一口に言っても、中身は大きく3つに分かれます。まず、3つを同じ表に並べて比べてみましょう。
| 比較項目 | 社会保険の壁(106万円) | 扶養の壁(130万円) | 税金の壁 |
|---|---|---|---|
| 何の壁か | 会社の規模などの条件を満たすパート・アルバイトが、自分で社会保険に入ることになる収入の目安 | 家族の健康保険や年金の扶養から外れ、自分で保険料を払うことになる収入の目安 | 所得税や住民税がかかり始める収入の目安 |
| 誰に影響するか | 対象になる会社で働くパート・アルバイト | 家族の扶養に入っている人 | 働く本人(配偶者控除まわりの扱いは配偶者にも関係します) |
| 基準を決めるもの | 社会保険の適用基準(会社の規模や週の所定労働時間などの条件) | 家族が加入する健康保険の基準 | 税制(控除の仕組み) |
| 会社側の対応 | 賃金要件の撤廃の動きと、残る「週20時間」の条件を押さえて対象者へ説明する | 事業主の証明など、会社が動くことで使える対応策を案内する | 詳細は税理士や税務署の案内で確認してもらう |

この記事では、会社の実務に直接かかわる前の2つを中心に扱います。税金の壁は、控除の見直しなど税制側の議論が続いているため、最新の内容は税理士や税務署の案内で確認してください。
106万円の壁は「なくなる」方向
社会保険の壁の中心にあった、月額8.8万円(年収約106万円)という賃金の条件は、厚生労働省の案内で令和8年(2026年)10月に撤廃されるとされています。撤廃にあたっては、最低賃金の状況を踏まえるとも示されています。
注意したいのは、これで壁の問題がすべてなくなるわけではないことです。会社の規模の条件は、2027年10月以降に段階的に下がるものの、今は「厚生年金の被保険者数が51人以上」の会社が対象です。また、週の所定労働時間が20時間以上であることも、引き続き条件に残ります。賃金の額による壁は消えても、「週20時間」という時間の壁は残る、という整理がわかりやすいでしょう。
130万円の壁には、すでに使える対応策がある
扶養の壁(130万円)は、会社ではなく家族が加入する健康保険の基準で決まります。厚労省の案内では、会社にとって関係の深い対応策が3つ示されています。
- 事業主の証明による扶養認定:人手不足などで残業が増え、一時的に年収が130万円以上となった場合、一時的な収入であることを会社が証明すれば、原則として連続2回まで引き続き扶養に入れる
- 労働契約内容による年間収入の判断:扶養に入る時点で、基本給や諸手当などの契約内容から見込まれる年間収入が130万円未満であれば、原則として扶養に入れる
- 学生年代の基準見直し:19歳以上23歳未満の人(配偶者を除く)の年間収入の基準が、150万円未満に引き上げられた
特に、事業主の証明は会社が動かなければ使えない制度です。繁忙期に一時的に収入が増えた従業員から相談があったとき、「制度があるので申請できます」と案内できるかどうかで、本人の安心感は大きく変わります。証明書の書き方や提出先は、本人が加入している健康保険ごとに異なるため、確認が必要です。
たとえば、飲食店で年末の繁忙期に急に人手が足りなくなり、扶養内で働いていたスタッフに追加のシフトをお願いしたとします。年収がうっかり130万円を超えそうになったとき、会社が「一時的な収入増である」ことを証明できれば、本人は扶養にとどまれる可能性があります。一方で、使えるのは原則として連続2回までという制限があり、毎年のように超える働き方が続くなら、扶養に入ったままで働くのか、自分で保険に入るのかを、別の角度から考える必要が出てきます。
制度の使い方に迷うときは、社会保険労務士に相談するのが近道です。相談前の準備のしかたは、準備シートの記事も役立ちます。
会社ができる対応策
壁による働き控えを減らすために、会社の側でできることは大きく4つあります。
- 制度の情報を先に届ける:年末を待たず、年に数回、社内で壁の仕組みと使える対応策を案内する。口頭だけでなく、短い資料にして渡すと伝わりやすい
- 本人の希望を聞く:「時間を増やしたい」のか「今のままがよい」のかは、人によって違う。年初などに面談の機会を設け、働き方の希望を確認する
- 繁忙期の依頼の仕方を工夫する:一時的に収入が増えそうなときは、事前に本人に伝え、事業主の証明が使えるかを一緒に確認する
- 助成金の活用を検討する:厚労省の案内には、キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」が示されている。要件は変わることがあるため、申請前に最新の案内を確認する
大事なのは、会社が従業員の収入を操作するのではなく、本人が選べる状態をつくることです。制度を知らないために損をする、あるいは必要以上に働く時間を抑える、という状況を減らしましょう。
どの進め方が自社に合うか迷うときは、コミッターズまでお気軽にご相談ください。
年末までに確認したいこと
2026年も残りわずかです。壁を意識した働き控えが起きやすいのは、10月から12月にかけてです。今のうちに、次の点を点検しておきましょう。
- 扶養内で働いている従業員の、年間の見込み収入の把握(本人の同意を得たうえで)
- 繁忙期の追加シフトで、年収が基準に近づいていないか
- 事業主の証明を求められたときの、社内の窓口と書類の流れ
- 2026年10月の賃金要件の撤廃に合わせた、対象者への説明が済んでいるか
- 新年度の契約更新で、働き方の希望を確認する面談の予定
収入の確認は、従業員のプライバシーにかかわります。会社から一方的に収入や家族の状況を聞き出すのではなく、本人が自分から相談しやすい雰囲気をつくることを優先してください。
配偶者手当の基準も見直しどき
意外と見落とされるのが、会社独自の「配偶者手当」です。配偶者の収入が一定額を超えると手当が出なくなる仕組みの会社では、制度上の壁がなくなっても、会社の手当の基準が新しい壁として残ることがあります。厚労省の案内でも、配偶者手当への対応が項目として挙げられています。
見直しを考えるときは、手当の目的を整理しましょう。家族を養う従業員への生活支援なのか、扶養の範囲に収まるように働く人への優遇なのかで、制度の組み替え方は変わります。変更は従業員の待遇に直結するため、労働条件の不利益変更にならないよう、就業規則の手続きを丁寧に進める必要があります。
まとめ
年収の壁は、2026年10月の賃金要件の撤廃で大きな節目を迎えますが、週20時間という時間の条件や、130万円の扶養の壁、会社独自の配偶者手当などは残ります。会社にできるのは、制度の情報を先に届けること、本人の希望を聞くこと、事業主の証明などの対応策を案内できるようにしておくことです。壁をなくすのではなく、本人が納得して働き方を選べる環境を整えることが、人手不足の時代の対策になります。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(社会保険労務士)に確認してください。


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