目次
1. 「努力」から「義務」へ
2. カスハラは3つの条件で決まる
3. 会社に求められる措置の全体像
4. 最初に決める「会社の方針」
5. 相談窓口と現場の動き方
6. 取引先や顧客への伝え方
7. まとめ
「お客様は神様」という言葉を、いまも守らなければと思っていませんか。長時間のクレーム、土下座の強要、SNSでの晒し、執拗な電話。現場で働く人にとって、こうした言動は、心身をすり減らす大きな負担です。そして2026年10月から、こうしたカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策は、会社の「がんばり」ではなく事業主の義務になりました。この記事では、経営者の目線で、会社が決めておくべきことを整理します。
「努力」から「義務」へ
カスハラ対策の義務化は、労働施策総合推進法という法律の改正によるものです。改正法は2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されました。つまり、すでに始まっている制度です。
これまで、パワハラやセクハラについては、会社に防止の措置を講じる義務がありました。そこに、カスハラへの対応が加わった形です。対象は、中小企業を含む事業主です。「うちは小さな会社だから」「BtoBの取引が中心だから」と考えていても、取引先や来訪者からの言動が従業員を苦しめることはあります。顧客だけでなく、取引先などの「顧客等」を含めて考えるのがポイントです。
カスハラは3つの条件で決まる
では、何がカスハラにあたるのでしょうか。厚生労働省の整理では、次の3つをすべて満たすものとされています。
- 職場において行われる、顧客等の言動であること
- 社会通念上、許される範囲を超えていること
- 労働者の就業環境が害されること
ポイントは、「お客様の要望そのもの」がカスハラになるわけではないことです。正当なクレームや改善の要望は、そのまま受け止める必要があります。一方で、要求の内容は妥当でも、暴言や長時間の拘束といった手段が社会的に許される範囲を超えていれば、カスハラにあたり得ます。すべてを「クレーム=カスハラ」と決めつけず、内容と手段を分けて考えることが、現場での判断を助けます。
たとえば、商品の不具合に対する返金の要求は、内容として正当でありえます。しかし、「謝罪文を書いて土下座しろ」「SNSに晒すぞ」といった要求は、手段として社会通念上の範囲を超える可能性があります。こうした具体例を社内で共有しておくと、現場の判断がそろいやすくなります。
会社に求められる措置の全体像
国の指針が示す措置は、大きく次の流れで整理できます。
- 方針の明確化と周知・啓発:カスハラには毅然と対応し、従業員を守るという会社の方針を決めて、周知する。研修も含まれる
- 相談体制の整備:相談窓口と担当者を決めて、従業員に伝える。担当者が適切に動けるよう、マニュアルや関係部署との連携を用意する
- 事後の迅速で適切な対応:事実を素早く確認し、被害を受けた従業員を守る(行為者と引き離す、上司が代わって対応するなど)。再発防止も行う
- 悪質なケースへの対処の方針:特に悪質な場合の対応方針を決めて、体制を整える
- プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止:相談した従業員の情報を守り、相談したことを理由に不利な扱いをしない
これらは「できればやる」ではなく、法的な義務として求められるものです。完璧な仕組みを一度で作る必要はありませんが、最低限の骨組みは、早めに整えましょう。
合わせて読みたい:カスハラの社内ルールと相談窓口の作り方
最初に決める「会社の方針」
5つの措置の中で、最初に取りかかりたいのは方針です。社長のひとことでも構わないので、文書にして、全員に見える形で出します。
たとえば、次のような内容を盛り込みます。
- カスハラは従業員の就業環境を害する行為であり、許さないこと
- 正当なクレームには誠実に対応すること
- 悪質な場合は、会社として対応し、必要に応じて警察や弁護士に相談すること
- 従業員が相談しても、不利益な扱いはしないこと
この方針は、就業規則に反映する、社内の掲示板やイントラネットで共有する、朝礼や研修で説明する、といった形で周知します。書いただけで終わらせず、従業員が読んで理解している状態にするのが目的です。
相談窓口と現場の動き方
次に、相談窓口です。担当者を決めるだけでは、機能しません。
- 誰に、どうやって相談するのか(連絡先、方法)を明確にする
- 相談があったときの流れ(事実確認、記録、対応の判断)を決める
- 窓口が上司や特定の人に集中しないよう、複数の相談先を用意する
現場では、判断に迷う場面が次々に出てきます。たとえば、顧客が「責任者を出せ」と何時間も居座っているとき、誰が、いつまでに、どう動くのか。1人の従業員が抱え込まないためのルールを、あらかじめ決めておきましょう。
対応した従業員へのケアも、会社の大切な役目です。対応のあと、本人の話を聞く時間を取り、必要があれば休憩や配置の見直し、産業医や外部の相談先の案内などを検討します。「我慢するのが当たり前」という空気を残したままでは、せっかくの仕組みも使われなくなってしまいます。
具体的には、複数人での対応、時間の目安(たとえば30分を超えたら上司に交代)、記録の取り方(日時、言動の内容、対応者)、録音や録画の扱い、などです。悪質な暴言や脅迫、暴力などのおそれがある場合は、警察への通報も選択肢に入れておきます。
取引先や顧客への伝え方
会社の方針は、社外にも伝えると効果が高まります。店舗の掲示や、ウェブサイトの案内、契約書や利用規約への記載など、「こうした行為はお断りします」という意思を示す方法があります。
ただし、書き方には注意が必要です。正当な要望まで封じるような表現になると、かえって反発を招くことがあります。何がNGで、何は歓迎かを、バランスよく書くことが大切です。
なお、取引先がカスハラの当事者になる場合は、契約や取引条件の見直しが必要になることもあります。いきなり関係を切るのではなく、まずは書面で行為の中止を求め、記録を残しながら進めるのが基本です。判断に迷うときは、早い段階で弁護士に相談しておくと、慌てずに済みます。
まとめ
カスハラ対策は、2026年10月1日から事業主の義務になりました。会社が整えたいのは、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速な対応、悪質ケースへの備え、そしてプライバシーの保護です。まず社長のメッセージとして方針を出し、相談窓口と現場の動き方を決めるところから始めましょう。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士、社会保険労務士)に確認してください。



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