目次
1. 取締役と会社は「委任」の関係
2. 会社に対する責任:任務を怠ったとき
3. 第三者に対する責任:取引先や債権者に請求される場面
4. 競業・利益相反は、必ず「承認」を
5. 日常でできる予防策
6. 保険や仕組みで備える方法
7. まとめ
「うちは家族経営の小さな会社だから、取締役の責任なんて関係ない」。そう考えている社長は、案外多いものです。ところが、会社法は、会社の規模を問わず、取締役に一定の責任を課しています。会社が傾いたとき、取引先が「社長個人に請求する」と言い出すケースもあります。怖がらせるつもりはありません。仕組みを知っておけば、日常のちょっとした工夫で、責任のリスクは減らせます。この記事では、取締役の責任の基本と、今日からできる予防策を整理します。
取締役と会社は「委任」の関係
取締役と会社の関係は、法律上「委任」にあたります(会社法330条)。会社が取締役に、経営という仕事を任せている形です。
この関係から、取締役には次の義務が生じます。
- 善管注意義務:プロとして、注意深く職務を行う義務
- 忠実義務:法令、定款、株主総会の決議を守り、会社のために忠実に職務を行う義務(会社法355条)
簡単に言えば、「会社のために、きちんとした判断をし、私利私欲で動かない」ということです。社長が自分の会社のオーナーであっても、会社と社長個人は別人格です。会社のお金や事業を、個人のものと混ぜて扱わない姿勢が出発点になります。
会社に対する責任:任務を怠ったとき
取締役が任務を怠り、会社に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負います(会社法423条)。株主が会社に代わって取締役に責任を追及する株主代表訴訟という制度もあり、同族会社でも、株主の間で対立が起きれば現実の話になります。
もっとも、経営判断の結果が悪かっただけで、すぐに責任を負うわけではありません。裁判所は、判断に至る情報収集や検討の過程に、不合理な点がなかったかを見る傾向があります(いわゆる経営判断の原則)。逆に言えば、調べずに、記録も残さずに決めた大きな投資は、あとで説明に苦労します。
この責任は、免除するにも、原則として総株主の同意が必要です(会社法424条)。軽く考えず、重大な判断ほど、検討の記録を残しておきましょう。
第三者に対する責任:取引先や債権者に請求される場面
中小企業の社長がより身近に感じるのは、こちらかもしれません。会社法429条は、取締役が職務を行うについて悪意または重大な過失があったとき、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。
たとえば、返済の見込みがないと分かっているのに、取引先から商品を仕入れ続けたような場面で、会社の債権者から請求される可能性があります。また、決算書に重要な虚偽の記載をした場合なども、条文に挙げられています。
ここで注意したいのが、名前だけの取締役です。「頼まれて名前を貸しているだけ」でも、取締役である以上、ほかの取締役の職務を見守る責任が問われることがあります。複数の取締役が責任を負うときは、連帯して負担する形になります(会社法430条)。
なお、ここまで説明した取締役としての責任と、銀行借入などで社長が個人として負う連帯保証の責任は、別のものです。連帯保証は、契約書にサインしたことで生じる責任で、会社の経営判断が適切だったかどうかとは関係なく問われます。社長が「会社が潰れても自分は大丈夫」と考えていても、保証を入れていれば別の話です。借入のたびに、保証の有無と範囲を確認しておきましょう。
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競業・利益相反は、必ず「承認」を
取締役が会社と取引をしたり、会社と同じ事業を自分で始めたりする場面は、特に注意が必要です。会社法356条は、次のような場合に、株主総会で重要な事実を開示して、承認を受けることを求めています。
- 取締役が自分や第三者のために、会社の事業と同じ種類の取引をするとき(競業)
- 取締役が自分や第三者のために、会社と取引をするとき(たとえば、社長個人の土地を会社に貸す)
- 会社が取締役の借金を保証するなど、会社と取締役の利益が対立するとき
取締役会がある会社では、承認の場所は取締役会に変わります(会社法365条)。この承認を取っていないと、のちに責任を問われやすくなります。また、承認を得て取引した場合でも、会社に損害が生じれば、責任が生じることがあります。社長が会社にお金を貸す、会社が社長から土地を借りるといった日常の取引こそ、議事録を整えておきたい場面です。
日常でできる予防策
「うちは取締役会もない、社長ひとりの会社だ」という場合でも、やることは変わりません。むしろ、チェックする人がいない分、記録が自分を守る材料になります。責任リスクを下げる基本は、次の5つです。
- 議事録を残す:重要な決定は、日付、出席者、理由を記録する
- お金の線引きをする:会社の口座と個人の口座を分ける。役員貸付や立替は記録する
- 資金繰りを把握する:支払いの見込みを月次で確認する
- 登記を最新にする:取締役には任期があり、原則2年です。公開会社でない会社なら、定款で最長10年まで伸ばせます(会社法332条)
- 専門家に早めに相談する:判断が難しい取引や、資金が厳しくなってきたとき
任期を過ぎて役員変更の登記をしていないと、過料などの別の問題につながります。実際、「任期が切れていたことに気づかず、何年も重任の登記をしていなかった」というのは、小さな会社でよくある見落としです。決算期のあとの定時株主総会の時期に、役員の任期が来ていないかを毎年確認する習慣をつけましょう。
もうひとつ、資金繰りが苦しくなってきたときは特に慎重になりましょう。返済の見込みが立たないまま新しい取引を重ねたり、特定の取引先にだけ先に支払ったりすると、後から問題視されることがあります。苦しいときほど、早く専門家に相談するのが、結果として取締役自身を守ります。
保険や仕組みで備える方法
備えのひとつに、役員賠償責任保険(D&O保険)があります。役員が責任を追及されたときの損害を補てんする保険です。会社法でも、会社がこうした保険契約を結ぶときの手続きが整理されています(会社法430条の3)。
ただし、保険は万能ではありません。補償の対象外になる場面(故意の違反など)や、保険料の負担の問題もあるため、加入前に内容をよく確認してください。
また、社長ひとりが重い判断を背負い込まないよう、社外の目を入れることも有効です。顧問の弁護士や税理士、信頼できる経営者仲間に定期的に相談する習慣があるだけで、判断の質は変わります。
まとめ
取締役は会社と委任の関係にあり、善管注意義務と忠実義務を負います。責任は、会社に対するもの(会社法423条)と、第三者に対するもの(同429条)があり、小さな会社でも例外ではありません。議事録、お金の線引き、登記、専門家への相談という基本を押さえておけば、リスクは確実に減らせます。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。


