目次
1. 名前も呼び方も新しくなった
2. 比較表で見る旧下請法と取適法
3. 対象取引の範囲はどう広がったか
4. 発注側に課される4つの義務
5. 禁止行為はどう増えたか
6. つまずき場面と違反のリスク
7. 発注側の「初手」3つ
8. まとめ
9. 合わせて読みたい
「下請法」という言葉は聞いたことがあっても、自分の会社には関係ないと思っていませんか。2026年1月から、この法律は名前も中身も新しくなりました。新しい名前は「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」です。しかも、対象になるかどうかを決める物差しに「従業員数」が加わったため、これまで対象外だった会社が、気づかないうちに「守る側」に回っている可能性があります。この記事では、旧下請法と取適法を比べながら、発注する会社が最初に確認したいことを、順番に整理します。
名前も呼び方も新しくなった
取適法は、2026年1月1日に、下請法に代わって施行されました。法律の名前だけでなく、登場人物の呼び方も変わっています。
- 親事業者 → 委託事業者(仕事を頼む側)
- 下請事業者 → 中小受託事業者(仕事を受ける側)
「親」「下請」という上下関係を連想させる言葉をやめて、対等な取引をめざす姿勢を示した形です。呼び方が変わっただけでなく、守るべきルールも増えました。主な変更点は、従業員数による適用基準の追加、運送の委託が対象に加わったこと、そして禁止事項が増えたことです。
比較表で見る旧下請法と取適法
まずは全体像を表で比べます。
| 比較項目 | 旧下請法 | 取適法 |
|---|---|---|
| 法律名 | 下請法 | 中小受託取引適正化法(取適法)。2026年1月1日施行 |
| 発注側・受注側の呼び方 | 親事業者・下請事業者 | 委託事業者・中小受託事業者 |
| 適用の物差し | 主に資本金の大きさ | 資本金に加えて従業員数の基準も使う |
| 対象取引 | 製造や修理、役務提供などの委託 | 従来の委託に加え、荷主が運送会社に配送を頼む「特定運送委託」も対象 |
| 支払手段 | 手形による支払いが一部で使われてきた | 手形払い等は禁止。現金化しにくい電子記録債権やファクタリングも認められない |
| 代金の決め方 | 協議に応じない一方的な決定への禁止はなかった | 協議に応じない一方的な代金の決定が禁止に追加 |
| 禁止行為 | 従来の禁止行為 | 11行為。上記の2つが新顔 |

対象取引の範囲はどう広がったか
これまでは、主に資本金の大きさで「親事業者」にあたるかを判断していました。取適法では、これに加えて従業員数の基準が使われます。資本金の基準に当てはまらなくても、従業員数の基準に当てはまれば対象になります。
- 製造や修理などの委託:従業員300人が目安
- 役務提供(サービス)の委託など:従業員100人が目安
「委託事業者が基準を超え、受ける側が基準以下」という組み合わせで対象になる、という考え方です。資本金の細かい金額の区分は取引の種類で変わるため、自社がどこに当てはまるかは、公正取引委員会の特設ページで確認してください。あわせて、荷主が運送会社に配送を頼む「特定運送委託」も新たに対象になりました。
発注側に課される4つの義務
対象になった場合、委託事業者には次の4つの義務があります。
- 発注内容の明示:発注のときに、必要事項を書面か電磁的記録(メールなど)で直ちに渡す。記載事項は11項目
- 支払期日を定める:物を受け取った日(サービスなら提供を受けた日)から60日以内で、できるだけ短く設定する
- 書類の作成と保存:取引の内容や代金などの記録を作り、2年間保存する。記載事項は17項目
- 遅延利息の支払い:期日までに払わなかった場合は、60日を過ぎた日から支払う日まで年率14.6%の遅延利息を払う
口約束で発注して「あとで書面を出せばいい」という運用は、そもそも成り立ちません。発注のたびに、メールでも構わないので条件を残すことが基本です。
禁止行為はどう増えたか
取適法では、委託事業者がやってはいけない行為が11項目定められています。代表的なものを挙げます。
- 受領拒否(頼んだ物を、理由なく受け取らない)
- 代金の減額、支払いの遅れ
- 返品、買いたたき(通常より著しく低い代金を一方的に決める)
- 購入や利用の強制
- 不当な経済上の利益の提供要請(協賛金の名目での金銭負担など)
- 不当な給付内容の変更ややり直し
大事なのは、相手が了解していても違反になることです。「先方も納得してくれたから」は通用しません。また、違法性の認識がなかった場合でも、規定に当てはまれば違反とされます。
今回の改正で目立つのが、次の2つです。
1つ目は、協議に応じない一方的な代金の決定です。原材料費や人件費が上がり、受注側が価格の相談を持ちかけたのに、話し合いに応じない、必要な説明をしないまま、発注側が一方的に代金を決める行為が禁止されました。「いつも通りの金額で」と押し切るのは、リスクになります。
2つ目は、手形払い等の禁止です。手形による支払いはできなくなりました。電子記録債権やファクタリングも、支払期日までに満額を現金化しにくいものは認められません。あわせて、振込手数料を受注側に負担させる扱いも、禁止の対象として案内されています。支払条件の古い慣行が残っていないか、経理担当と一緒に見直しておきましょう。
つまずき場面と違反のリスク
たとえば、年度の途中で材料費が上がり、受注側から「単価の相談をしたい」と連絡が来たとします。担当者が忙しさを理由に返信を後回しにし、前年と同じ単価で発注を続けた場合、協議に応じなかったと見られるおそれがあります。悪気がなくても、記録が残っていなければ「話し合いをした」と説明するのも難しくなります。
もう一つ多いのが、請求書の締め日と支払日の組み合わせです。「月末締め・翌々月末払い」のような設定は、品物を受け取った日から数えると60日を超えてしまう場合があります。取引先ごとに、受け取った日から支払日まで何日かかっているかを、一度数えてみてください。社内の慣行がそのまま法律の基準に合っているとは限りません。
取適法の運用は、公正取引委員会などが担っています。違反の疑いがあれば調査が入り、内容に応じて指導や勧告が行われます。勧告まで進むと、企業名が公表されることもあります。罰金や課徴金の金額よりも、取引先や金融機関、採用候補者からの信用を失うことのほうが、中小企業にとっては重い負担になりかねません。
だからこそ、「違反してから直す」のではなく、「発注の入口で型を決めておく」ほうが、結果的にラクです。発注書の項目を整え、支払日のルールをそろえ、値上げ相談の窓口を一本化するだけで、リスクの大半は下げられます。
発注側の「初手」3つ
難しい勉強から始める必要はありません。次の3つなら、今週中に動けます。
- 取引先の洗い出し:発注先を一覧にして、従業員数や取引の種類から、取適法の対象になりそうなものに印を付ける
- 発注書・メールのひな形の点検:明示すべき項目が抜けていないか確認する
- 支払条件の確認:支払サイトが60日を超えていないか、手形や回収しにくい支払手段を使っていないか
そのうえで、値上げの相談を受けたときの窓口と、話し合いの記録の残し方を決めておくと安心です。どの進め方が自社に合うか迷うときは、コミッターズまでお気軽にご相談ください。違反が疑われる場合の相談先として、公正取引委員会の窓口があり、相談内容が委託事業者に知られることはないと案内されています。受注側の立場の取引先が、ここに相談する可能性もあります。
まとめ
取適法は、2026年1月1日に始まった新しいルールで、発注する側の会社が守る側になります。旧下請法と比べたときのポイントは、従業員数でも対象が決まること、運送の委託が対象に加わったこと、発注内容の明示・60日以内の支払い・2年間の書類保存・遅延利息という4つの義務を確認すること、そして協議なしの代金決定や手形払いが禁止されたことです。まずは発注先の洗い出しと、発注書の点検から始めてください。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。
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