目次
1. 最初にやるのは「動かないこと」
2. 次に「証拠を守る」
3. 事実確認は「外堀から本人へ」
4. 被害の拡大を止める
5. 処分は「根拠」と「相当性」で考える
6. 公表と再発防止は、最後に整える
7. まとめ
経理担当の不自然な支払い、営業社員による顧客情報の持ち出し、SNSでの不適切な投稿。従業員の不祥事は、ある日突然、報告が上がってきます。そのときの社長の頭には「すぐに本人を呼んで問いただしたい」「クビにするしかない」という考えが浮かびがちです。けれども、発覚直後の動き方で、その後の対応のしやすさは大きく変わります。この記事では、慌てがちな初日にやるべきことを、順番に整理します。
最初にやるのは「動かないこと」
意外かもしれませんが、初動の第一歩は、すぐに処分や追及に動かないことです。怒りに任せて本人を問いただすと、証拠を消される、話が食い違う、逆にパワハラだと主張される、といった事態を招きかねません。
まず決めたいのは、次の3点です。
- 担当者を絞る:社長と、人事・総務の責任者など、少人数のチームで対応する
- 情報を集約する:発覚の経緯、報告者、日時を1か所にメモする
- 口外を控える:社内の噂が広がると、本人や関係者への影響が大きくなる
逆に、初日にやりがちな失敗も挙げておきます。
- 感情的に本人を呼び出し、証拠をそろえる前に問いただす
- 全社メールや朝礼で、名前が分かる形で注意喚起してしまう
- 取引先に、事実が固まらないうちに断定的な説明をする
- 「とりあえず退職届を出させる」と、その場で辞めさせようとする
どれも善意や焦りから起こりますが、あとで「強要された」「名誉を傷つけられた」と主張される原因になります。
報告をしてくれた社員を守ることも重要です。「誰が言ったのか」を詮索せず、報告者が不利益を受けないようにしましょう。
次に「証拠を守る」
事実確認よりも先に、証拠の保全を行います。あとから消えたり、書き換えられたりするおそれがあるものを、先に確保します。
- 会社貸与のパソコン・スマートフォンのデータやログ
- 社内メール、チャットの履歴
- 入退室記録、防犯カメラの映像、勤怠データ
- 帳簿、請求書、領収書などの書類
- 問題の投稿や画面のスクリーンショット(日時が分かる形で)
注意したいのは、確認の範囲とやり方です。会社のシステムの確認は、社内規程で定めた範囲で行います。個人の持ち物や私的な連絡の内容に踏み込むと、かえって会社側が責任を問われるおそれがあります。迷ったら、その時点で弁護士に相談しましょう。
データの保全は、技術的な知識が要る場面もあります。ログの自動削除の設定を止める、アカウントの権限を一時的に制限する、といった対応は、早く、記録を残しながら行います。
事実確認は「外堀から本人へ」
証拠を確保したら、事実確認に進みます。順番は、原則として客観的な資料の確認、関係者の聞き取り、本人の聞き取りです。
本人への聞き取りでは、次の点に気をつけます。
- 複数人で対応し、聞いた内容を記録に残す
- 一方的に決めつけず、言い分を聞く機会(弁明の機会)を与える
- 長時間の拘束や、威圧的な言動は避ける
このとき、事実と推測を分けて書くのがコツです。「Aさんが顧客リストを持ち出したと思われる」という推測と、「◯月◯日にUSBメモリへのコピー履歴がある」という事実は、別々に整理します。
合わせて読みたい:問題社員への対応の段階を比べる:注意・指導から懲戒・解雇まで
被害の拡大を止める
事実確認と並行して、被害を広げない手当ても必要です。
- 本人のシステム権限を絞る、または業務から外す
- 状況によっては、自宅待機を命じる(賃金の扱いは就業規則などに基づき慎重に判断)
- 取引先や顧客への影響があれば、連絡する範囲とタイミングを決める
- 顧客の個人情報が漏えいした可能性があるときは、個人情報保護委員会への報告や、本人への通知が必要になる場合があるため、期限や要件を早めに確認する
- 横領や詐欺など犯罪にあたるおそれがあるときは、警察への相談も検討する
「誰に、何を、どこまで伝えるか」は、あとで説明を求められる場面を想定して決めておきます。説明の一貫性が、信頼回復の土台になります。
処分は「根拠」と「相当性」で考える
事実が固まったら、処分を検討します。ここで押さえるのは2点です。
1つ目は、就業規則に根拠があることです。常時10人以上の労働者を使用する会社は、制裁(懲戒)の種類と程度を就業規則に記載し、届け出る必要があります(労働基準法89条)。規定がない処分は、後から争われやすくなります。
2つ目は、処分が重すぎないこと(相当性)です。労働契約法15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は、権利の濫用として無効になると定めています。解雇についても、同法16条に同じ考え方があります。
減給の制裁には上限があります。1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1までです(労働基準法91条)。
懲戒解雇をする場合でも、即時解雇には労働基準監督署長の認定が必要になるなど、手続きの確認が欠かせません。過去の同種事案との均衡も見て、決めましょう。
そのほか、次の点も気をつけたいところです。
- 同じ行為に対して、あとから重ねて処分しない(一度決めた処分に、気が済まず別の処分を足さない)
- 発覚から長く放置したあとで重い処分を出すと、相当性を疑われやすい
- 処分の内容は、本人にだけでなく、社内の記録にも理由とともに残す
会社が「見せしめ」のために重くした処分は、無効と判断されるリスクがあります。処分の目的は、制裁そのものではなく、職場の秩序を保ち、再発を防ぐことだと考えると、判断の軸がぶれにくくなります。
公表と再発防止は、最後に整える
処分を決めたら、本人への通知は書面で行い、理由と根拠規定を明確にします。社内外への公表は、必要な範囲に限ります。被害者や関係者のプライバシーに配慮し、事実の範囲で、簡潔に伝えるのが基本です。
そのうえで、再発防止策を決めます。
- 権限の分離(承認者と実行者を分ける)
- 定期的なチェックやログの確認
- 研修や相談窓口の周知
- 就業規則の懲戒規定の見直し
不祥事は、起きた後の対応が、会社の姿勢として見られます。初日の動きを紙に落とし、手順書にしておくだけでも、次の備えになります。
まとめ
従業員の不祥事は、発覚した日の動き方が肝心です。まず担当者を絞って情報を集約し、証拠を保全し、客観的な資料から本人の聞き取りへと進みます。処分は、就業規則の根拠と相当性を確認してから決めます。焦って動くほど、あとで争いになりやすくなります。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。



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