目次
- 退職代行って、誰が連絡してくるの?
- 法律上、退職はいつできる?
- 連絡を受けた日の初動
- 決めるべき実務の中身
- 退職日までの出勤と有給の考え方
- やってはいけない対応
- 「なぜ辞めたのか」を振り返る
- まとめ
朝、出社してメールを開くと「◯◯さんの退職の意思をお伝えします」という見知らぬ会社からの連絡。本人は昨日まで普通に働いていたのに、出社もしない。退職代行サービスからの突然の連絡に、驚きと怒りで頭が真っ白になった、という話は珍しくなくなりました。しかし、ここで感情のまま動くと、会社のほうが法的なトラブルを抱えることにもなりかねません。この記事では、連絡が来た日にやること、やってはいけないことを、順番に整理します。
退職代行って、誰が連絡してくるの?
「退職代行」とひとくくりにされますが、運営する主体によってできることが違います。大きく分けると、次の3タイプです。
- 民間の業者:本人の退職の意思を会社に伝える連絡役
- 労働組合:労働組合法にもとづき、会社と話し合い(団体交渉)ができる
- 弁護士:本人の代理人として、会社と交渉したり、法的な手続きを進めたりできる
弁護士以外の人が報酬を得て、本人に代わって会社と交渉すると、弁護士法に違反するおそれがあります。つまり、民間業者は「伝えること」はできても、「交渉すること」はできないのが基本です。連絡が来たら、まず相手がどのタイプなのかを確認しましょう。
法律上、退職はいつできる?
会社として知っておきたいのが、退職についての法律の基本です。
- 期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など):民法上、退職の申し入れから2週間が経過すれば契約が終了するのが原則です
- 期間の定めのある雇用(契約社員など):契約期間の途中は、原則として「やむを得ない事由」がなければ辞められません。ただし、契約期間の初日から1年を経過した後は、いつでも退職できるとされる特例もあります
就業規則に「退職は1か月前までに申し出る」と書いてあっても、法律上の原則は2週間という見方が一般的です。ただ、個別の事情で判断が分かれる場面もあります。「うちの規則と違うから認めない」と突っぱねる前に、冷静に確認しましょう。
連絡を受けた日の初動
まず、次の順番で落ち着いて対応します。
- 連絡の内容を記録する。日時、連絡手段、相手の名前、伝えられた内容を残す
- 相手が誰かを確認する。弁護士か、労働組合か、民間業者かを聞く
- 本人の意思を確認する。委任状や、本人の意思を示す資料の提示を求める
- 窓口を決める。今後の連絡を誰が受けるかを、社内で一本化する
- 上司や人事で情報を共有する。ただし、必要な人だけに
相手が弁護士なら、法的な代理人として対応するため、会社も慎重に対応します。民間業者の場合は、伝言の範囲を超えた話(未払い賃金の請求、損害賠償の話など)には応じず、本人か弁護士・労働組合を通すよう伝えます。
事実確認や記録の取り方は、トラブル全般に共通する考え方です。
決めるべき実務の中身
退職が確定したら、次の実務を整理します。代行業者を通じて進められるものと、本人に直接確認が必要なものがあります。
- 退職日:本人の意思と、法律上のルールを踏まえて決める
- 有給休暇:残日数を確認し、本人の希望を聞く。会社が一方的に拒否はできない
- 貸与物の返却:制服、PC、鍵、社員証などを、郵送で受け取る方法を決める
- 私物:残っている私物を、返送するか取りに来てもらう
- 離職票・社会保険:資格喪失の手続きと、必要書類の発行
- 給与・精算:最終の給与と、経費の精算
- 引継ぎ:業務資料の所在、取引先への連絡
引継ぎは、本人が出社しない前提で進めるのが現実的です。資料の場所やパスワードなどを、日頃から共有しておくことが、この場面で効いてきます。
退職日までの出勤と有給の考え方
退職の連絡が来た翌日から、本人が出社しなくなるケースも多くあります。このとき、会社として悩むのが「残りの期間を欠勤扱いにしていいのか」という点です。
本人が有給休暇の残日数を使って、退職日まで休むことを希望する場合、会社が拒否できるのは限られた場面です。会社には、事業の正常な運営を妨げる場合に有給の時季を変更できる権利(時季変更権)がありますが、退職日が決まっている場合は、別の日に変更することができないため、実際には認めざるを得ない場面が多くなります。
一方で、有給の残日数がなく、本人が出社もしない場合は、無断欠勤として扱う余地があります。ただし、いきなり処分に進むのではなく、連絡を試みた記録を残し、本人または代理人に対して、書面で出勤や手続きを案内するのが安全です。欠勤の扱いは就業規則の定めによるため、日頃から規定を確認しておきましょう。
やってはいけない対応
感情的になりやすい場面だからこそ、次の対応は避けましょう。
- 退職自体を認めない、引き止めのために連絡を繰り返す
- 「損害賠償を請求する」「懲戒解雇にする」と脅す
- 退職金や最終給与を、不当に止める
- 本人の自宅や家族に連絡して、連れ戻そうとする
- SNSや取引先に、本人の悪口を広める
これらは、本人から会社への新たな請求や、ハラスメントの指摘につながるおそれがあります。退職を成立させ、手続きを淡々と進めることが、結果的に会社を守ります。
「なぜ辞めたのか」を振り返る
退職代行を使われた背景には、直接話し合うことが難しい事情があった可能性があります。上司との関係、長時間労働、ハラスメントなど、本人が会社に言い出せなかった理由があったかもしれません。
もちろん、すべてを会社の責任と考える必要はありません。ただ、相談窓口は機能していたか、上司と部下が話しやすい関係だったかを振り返ることは、次の退職を防ぐ手がかりになります。ハラスメントの相談窓口の整え方は、同じ労務カテゴリの記事でも取り上げています。
人が辞めない組織づくりは、経営そのものの課題でもあります。
まとめ
退職代行から連絡が来たら、まず記録を取り、相手が弁護士・労働組合・民間業者のどれかを確認します。退職は法律上、原則として2週間で成立する権利であり、会社が拒否することはできません。退職日、有給、貸与物、離職票、引継ぎなどの実務を淡々と進め、脅しや引き止めは避けましょう。そのうえで、辞めた背景を振り返ることが再発防止につながります。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(社会保険労務士・弁護士)に確認してください。


