目次
- キャリアアップ助成金はコースで分かれている
- 主要コースを比べる
- 正社員化コースの支給額の目安
- 会社が満たすべき主な要件
- 申請の流れとスケジュール
- 失敗しやすいポイント
- 転換前に決めておきたいこと
- 助成金ありきにしない
- まとめ
「頑張ってくれているパートさんを、正社員にしたい。でも、人件費が増えるのは正直こわい」。人手不足の時代、非正規で働く人に長く活躍してもらいたいと考える経営者は増えています。そこで知っておきたいのが、キャリアアップ助成金です。非正規雇用の人のキャリアアップや処遇改善に取り組んだ事業主を支援する制度で、いくつかの「コース」に分かれています。ただし、順番を間違えると受け取れません。コースごとの違いを比べたうえで、中心になる正社員化コースの基本と、会社がやっておくべき準備を整理します。
キャリアアップ助成金はコースで分かれている
その中の一つが正社員化コースです。対象になるのは、次のような転換です。
- 有期雇用の労働者を、正規雇用に転換した
- 無期雇用の労働者を、正規雇用に転換した
- 派遣労働者を、正規雇用として直接雇用した
ここでいう「正規雇用」には、勤務地や職務、時間を限定した多様な正社員も含まれます。「いきなりフルタイムの総合職は難しい」という場合でも、働き方を限定した正社員で、制度を活用できる可能性があります。
主要コースを比べる
キャリアアップ助成金の主要なコースを、対象と取り組みの観点で並べて比べます。
| 比較項目 | 正社員化コース | 賃金規定等改定コース | 障害者正社員化コース |
|---|---|---|---|
| 対象 | 有期・無期の非正規雇用の人、派遣労働者 | 賃金規定などの改定に取り組む会社の従業員 | 障害のある非正規雇用の人 |
| 求められる取り組み | 正社員への転換。転換制度を就業規則などに定め、転換後の賃金を3%以上増やす | 賃金規定等を改定し、賃金を引き上げる | 障害のある人を正社員へ転換する |
| 向いている会社 | 非正規の人を正社員として迎えたい会社 | まず賃金水準の底上げから始めたい会社 | 障害のある人の雇用を、正社員化で進めたい会社 |

支給額や細かな要件はコースごとに異なります。この記事では正社員化コースを中心に解説しますので、ほかのコースを使うときは、最新の要領で金額と要件を確認してください。
正社員化コースの支給額の目安
中小企業の場合、令和7年度の資料では、1人あたりの支給額は次のように示されています。
- 有期から正規:重点支援対象者は80万円、それ以外は40万円
- 無期から正規:重点支援対象者は40万円、それ以外は20万円
重点支援対象者とは、たとえば雇用期間が一定以上の有期雇用の人や、派遣労働者、母子家庭の母などのことです。さらに、正社員転換の制度や、多様な正社員の制度を新たに就業規則などに定めて適用した場合は、事業所ごとに加算があります。金額や加算の内容は年度ごとに見直されますので、実際に使うときは最新の要領で確認してください。
会社が満たすべき主な要件
細かな条件は多いのですが、押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 雇用保険の適用事業所であること
- キャリアアップ計画を作り、労働局またはハローワークに提出すること
- 就業規則などに、正社員への転換制度を定めておくこと
- 転換後の賃金を、転換前の6か月と比べて3%以上増やすこと
- 転換後の正社員として、賞与か退職金のどちらか、および昇給の制度が適用されること
3%以上の賃金アップは、特に見落とされやすい点です。基本給だけでなく、賞与や各種手当を含めた賃金で比べるルールがあります。転換の前に、賃金の設計を試算しておくことが大切です。
経営者や役員の親族を転換させる場合や、新しく卒業して雇い入れてから1年未満の人を転換させる場合などは、対象外になることがあります。
申請の流れとスケジュール
流れは、大きく4つの段階に分けられます。
- 就業規則を整える。正社員転換の規定がなければ、先に追加する
- キャリアアップ計画を提出する。転換日の前日までに提出する
- 実際に正社員へ転換し、転換後6か月分の賃金を支払う
- 支給申請をする。6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内
手続きは、窓口への持参、郵送、電子申請などで行えます。令和8年度は、制度の一部が改正されています。賃金の判定ルールや加算の内容が変わっているため、前年度の情報で動かないよう注意が必要です。
助成金の申請全般の流れと、もらえない落とし穴は、別の記事で整理しています。
採用や雇用で使える助成金:申請の流れと「もらえない」落とし穴
なお、転換の対象にできるのは、一定期間以上、会社で働いてきた人です。具体的には、正社員とは異なる就業規則などの適用を、通算で6か月以上受けていた人が対象になります。入社してすぐの人を急いで転換させても、要件を満たさないことがあるため、勤続期間と雇用形態の履歴を確認しておきましょう。
失敗しやすいポイント
正社員化コースで、よく聞かれる失敗は次の3つです。
- 計画を出す前に転換してしまう。転換日の前日までの提出が大前提
- 就業規則に転換制度がないまま転換し、後から「規定がない」と指摘される
- 賃金が3%以上増えておらず、要件を満たさない
また、試用期間の扱いにも注意が必要です。転換後の試用期間は、非正規の期間として扱われ、支給額が少なくなる場合があります。試用期間を設けるときは、期間の長さと、支給額への影響を事前に確認しておきましょう。
転換前に決めておきたいこと
制度の要件を満たすだけでなく、転換後の姿を具体的に描いておくと、運用がぶれません。
たとえば、正社員としてどんな役割と責任を任せるのかを、本人と話し合っておきましょう。パートのときと仕事内容が同じなのに、責任だけが重くなると、本人は不安になります。反対に、待遇だけ上げて仕事を変えないと、他の従業員との間で不公平感が生まれることもあります。
決めておくとよいのは、次の項目です。
- 転換後の職務内容、勤務地、勤務時間の範囲
- 賃金の水準と、賞与や昇給の考え方
- 評価の基準と、昇格の道筋
- 試験や面談など、転換の選考方法
転換の条件や選考方法は、就業規則に書いておくと、誰にとっても公平な運用になります。本人の希望を丁寧に聞くことで、転換後の定着もよくなります。
助成金ありきにしない
助成金は、あくまで取組みを後押しする制度です。正社員化は、人件費だけでなく、教育の機会、評価の仕組み、仕事の任せ方まで、会社の運営全体に関わります。
助成金がもらえるから転換する、ではなく、会社として長く働いてほしい人を、正社員として迎えるという判断が先にあるべきです。そのうえで助成金を、負担を軽くする手段として活用する。この順番を守ると、転換後の定着もうまくいきやすくなります。
どのコースが自社に合うか迷うときは、コミッターズまでお気軽にご相談ください。
人材を育て、組織を強くしていく考え方は、経営全般の話にもつながります。
まとめ
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期や無期の非正規雇用の人を正社員に転換した会社を支援する制度です。就業規則の整備、転換日の前日までの計画提出、転換後の賃金3%以上アップが三つの柱です。申請期限も短いため、転換を決める前から準備を始めてください。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(社会保険労務士)に確認してください。

