目次
1. 株が散らばると、何が困るのか
2. 知っておきたい議決権の「数字の目安」
3. 株が散らばる4つのきっかけ
4. 対策①:譲渡制限と、相続人への売渡請求
5. 対策②:種類株式・株主間契約・買戻しの約束
6. まず棚卸しから:今日できる3つの確認
7. まとめ
創業時は社長ひとりで100%持っていた株。ところが、気づけば、亡くなった共同創業者の相続人、辞めた元役員、昔出資してくれた知人……と、あちこちに散らばっていた。そんな話は、中小企業では珍しくありません。株が散らばると、会社の重要な決定が思うように進まなくなるおそれがあります。この記事では、株式が分散するリスクと、早めに打てる対策を、経営者の目線で整理します。
株が散らばると、何が困るのか
株式会社の持ち主は株主で、会社の大事なことは株主総会で決まります。そこでは、株主が持つ株式の数(議決権)が、発言力そのものになります。
散らばった株主の中に、会社に協力的でない人や、連絡が取れない人がいると、次のような困りごとが起こります。
- 株主総会が開けない、または決議が成立しない
- 定款の変更や増資など、重要な決定が止まる
- 事業承継や会社売却のときに、全員の同意が取れない
- 株を買い取ってほしいと、高額な要求をされる
問題が表面化するのは、事業承継やM&A、資金調達といった大きな局面がほとんどです。その時点では、手を打つ選択肢が限られてしまいます。
知っておきたい議決権の「数字の目安」
会社法には、持ち株の割合ごとに、できることが決まっています。主なものは次のとおりです。
- 過半数:普通決議(取締役の選任など)を通せる。出席した株主の議決権の過半数で決まる
- 3分の2以上:特別決議(定款変更、合併、株式の併合など)に必要。出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が条件(会社法309条2項)
- 3分の1超:特別決議を単独で否決できる、いわば拒否権に近い力(3分の2の賛成が集まらなくなるため)
- 3%以上:会計帳簿の閲覧請求(433条)や、総会の招集請求(297条)ができる
- 10%以上:やむを得ない事由があるときに、会社の解散を裁判所に請求できる(833条)
つまり、自分が3分の2を握っているかどうかが、経営の自由度を大きく左右します。逆に、少数の株主でも、3%や10%を超えると、一定の権利を行使できます。
合わせて読みたい:事業承継で株を移すときの登記と名義書換
株が散らばる4つのきっかけ
分散は、次のような場面で起こります。
- 相続:株主が亡くなると、株は相続人に引き継がれる。相続人が複数なら、さらに細かく分かれる
- 退職:創業期に役員や従業員に株を渡していて、辞めた後も株主のまま残る
- 出資:資金調達で知人や取引先に株を渡し、そのまま付き合いが薄れる
- 贈与・売却:親族間の贈与や、株主同士の売買で持ち分が動く
特に怖いのが相続です。経営に関わっていない相続人が株主になり、さらにその次の世代へと細分化していくと、株主の把握すら難しくなります。
たとえば、創業メンバー3人で株を3分の1ずつ持っていた会社を考えてみます。そのうちの1人が亡くなり、配偶者と子ども2人が相続すると、株主は一気に5人に増えます。相続人のうち、会社の事情を知らない人が株を「そのまま持つ」と決めれば、経営陣は、事情を知らない株主に重要な議案を説明し続けなければなりません。相続は、株主を増やす方向にしか働かないと覚えておきましょう。
対策①:譲渡制限と、相続人への売渡請求
最も基本の対策が、株式の譲渡制限です。定款に「株式を譲渡するには会社の承認が必要」と定めておけば、知らない人に株が渡るのを防げます(会社法107条・108条)。中小企業の多くが、すでに設けています。
ただし、譲渡制限は「売買や贈与」に効くもので、相続で株が移るのは止められません。そこで使えるのが、会社法174条の定めです。定款に、相続などで株を取得した人に対し、会社が株を売り渡すよう請求できる旨を定めておく方法です。
この請求は、そのつど株主総会の特別決議で決めます(会社法175条)。請求される相続人は、その総会で議決権を行使できません。また、請求できるのは、会社が相続があったことを知った日から1年以内です。会社が株を買い取るには、会社の財産の範囲で行うという財源のルールもあるため、資金の用意は欠かせません(会社法461条)。
対策②:種類株式・株主間契約・買戻しの約束
定款の定めだけでなく、契約や株式の設計でも備えられます。
- 種類株式:議決権の制限された株式や、特定の決議に拒否権を持つ株式など、内容の異なる株式を発行できる(会社法108条)。後継者に議決権を集中させたいときに使われる
- 株主間契約:株主同士で、議決権の行使や、株を売るときのルールを約束する
- 買戻しの合意:従業員や役員に株を渡すときに、退職時には会社や代表者に戻す約束をしておく
株主間契約や買戻しの合意は、当事者を縛れても、第三者には効かない点に注意が必要です。契約の相手が株を第三者に売ってしまうと、契約違反は問えても、株が戻るとは限りません。だからこそ、定款の定め(譲渡制限など)とセットで設計します。また、買戻しの価格の決め方(算定の方法)を契約で決めておかないと、いざというときの交渉でもめる原因になります。
なお、種類株式は定款の定めや登記が必要になるなど、設計が複雑です。自社に合う形かどうか、弁護士や司法書士と相談しながら進めるのが現実的です。
まず棚卸しから:今日できる3つの確認
対策の前に、現状を確認しましょう。
- 株主名簿は最新か。誰が何株持っているか、住所は合っているか
- 定款に、譲渡制限や相続人への売渡請求の定めがあるか
- 自分の持ち株の行き先は決まっているか(遺言など)
棚卸しの結果、「名義は昔の人のままだが、実際の出資者は別」という名義株が見つかることもあります。こうした場合は、誰のものかを整理するだけでも時間がかかるため、放置せずに専門家へ相談しましょう。また、株主の所在が分からなくなっているときは、通知や手続きが進まず、総会の運営にも影響します。連絡先の更新は、毎年の定時株主総会のタイミングで行うと習慣になります。
特に、昔の出資者や退職者の株は、記録が曖昧なまま放置されがちです。見つかった場合は、株主が元気なうちに、買い取りの話し合いを進めるのが基本です。相続が起きてからでは、交渉相手が増えて、話が複雑になります。
まとめ
株が分散すると、重要な決定が止まり、事業承継や資金調達のときに大きな壁になります。まず自分の議決権割合と、株主名簿・定款を確認すること。そのうえで、譲渡制限、相続人への売渡請求、種類株式、株主間契約などを組み合わせて備えましょう。どれも、元気なうちほど進めやすい対策です。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。



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