目次
1. ポイント1:入力情報の線引き
2. ポイント2:使うツールと契約条件
3. ポイント3:出力の確認は人間の仕事
4. ポイント4:著作権と他人の権利
5. ポイント5:責任分担と事故対応
6. まとめ
ChatGPTのような生成AIを、仕事で使う社員が増えています。メールの下書き、議事録の要約、企画のたたき台づくり。便利な一方で、「社員がお客様の情報を入力していないか」「AIが書いた文章をそのまま使って大丈夫か」と、不安を抱える経営者も多いはずです。禁止してしまうのは簡単ですが、それでは競争に遅れてしまいます。大切なのは、使い方のルールを会社として決めておくことです。この記事では、社内ルールを弁護士に見てもらうときに、押さえておきたい5つのポイントを紹介します。
ポイント1:入力情報の線引き
ルールがないまま、現場の判断に任せると、次のようなことが起こり得ます。
- 担当者が、取引先の見積書や顧客リストをそのまま入力してしまう
- AIが作った文章に誤りがあるのに、確認せずに提出してしまう
- 他社の作品に似た画像を、広告に使ってしまう
- 社員が個人の無料アカウントで、勝手に使い始める
どれも、悪気があるわけではありません。ルールがないから起きることがほとんどです。ルールは社員を縛るためではなく、安心して使える範囲をはっきりさせ、会社と社員を守るためのものだと考えましょう。完璧を目指さず、A4用紙1〜2枚から始めても十分です。
ルール作りで最初に決めるのは、入力してはいけない情報です。個人情報保護委員会は、2023年6月に、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています。そのなかで、個人情報を含む内容を入力する場合は、特定した利用目的の範囲内かどうかを確認するよう求めています。本人の同意なく個人データを入力し、応答を出す以外の目的で扱われるようなら、法律違反となるおそれもある、という指摘です。
実務では、次のように分けるとわかりやすくなります。
- 入力してはいけないもの:お客様の氏名や連絡先などの個人情報、取引先から預かった機密情報、未公開の財務情報
- 条件付きで入力してよいもの:個人が特定できないよう加工した情報、公開されている情報
- 自由に入力してよいもの:一般的な文章の推敲、アイデア出し
取引先とのNDA(秘密保持契約)で、第三者への開示が禁止されている情報も、同じ扱いです。たとえば、取引先から預かった資料を要約させたいと考えた社員が、そのまま貼り付けてしまうケースは、とても起こりやすい場面です。ルールには、「迷ったら入力せず、上司に聞く」という一文を入れておくと、現場の迷いを減らせます。AIサービスの運営会社は第三者にあたる場合があります。
ポイント2:使うツールと契約条件
2つめは、どのサービスを使ってよいかです。同じ生成AIでも、サービスや契約プランによって、入力した内容の扱いが違います。入力した内容がAIの学習に使われる設定になっていないか、データがどこに保管されるのか、利用規約で何が許されているのか、確認が必要です。
そこで、会社として使ってよいツールを指定するのが効果的です。社員が個人のアカウントで業務の情報を入力する事態を防げますし、問題が起きたときに、何が使われたのかを追いかけやすくなります。ツールの契約内容や利用規約は、弁護士にチェックしてもらう価値の高い部分です。
合わせて読みたい:生成AIと著作権の境目:学習と生成で分けて考える
ポイント3:出力の確認は人間の仕事
3つめは、AIが出した答えを、誰がどう確認するかです。生成AIは、もっともらしい文章で、事実と違うことを書くことがあります。法律や制度の説明、数字、固有名詞は、とくに注意が必要です。
ルールには、次のような内容を入れておくと役立ちます。
- AIの出力は、人が内容を確認してから使う
- 事実や数字は、元の資料で裏付けを取る
- お客様や取引先に出す文書では、確認した担当者が責任を持つ
「AIが書いたから」は、お客様に対する言い訳になりません。最終的な責任は、使った人と会社にあるという前提を、全員で共有しておきましょう。
ポイント4:著作権と他人の権利
4つめは、権利の問題です。AIに学習させる段階と、AIが作ったものを使う段階では、問題になる点が違います。事業者が気をつけたいのは、後者です。
AIが作った文章や画像が、既存の作品と似ていて、しかもその作品をもとにしたと認められると、著作権の侵害になるおそれがあります。利用者がその作品を知らなくても、依拠(参考にしたこと)が認められる可能性があるとされています。そのため、広告やサイトなど、外部に公開するものは、特に慎重な確認が必要です。
また、特定の作家や作品の名前を指定して、「こんな雰囲気で」と指示する使い方は、避けたほうが無難です。他人の写真や人物の画像を取り込んで加工するときは、肖像などの権利にも注意が必要になります。
ポイント5:責任分担と事故対応
5つめは、体制です。誰がルールを管理し、何かあったときに誰が判断するのかを、決めておきます。
- 利用ルールの責任者(担当部署や担当者)
- 問題が起きたときの連絡先と、報告の流れ
- 社員への研修や周知の方法
- ルールを見直す時期(半年に1回など)
たとえば、うっかり顧客情報を入力してしまった社員がいても、すぐに報告できる雰囲気がなければ、被害は広がってしまいます。「報告したら怒られる」ではなく、早く報告してもらうほうが得だと、会社が示すことが大切です。生成AIの技術やサービスは、短期間で変わります。経済産業省と総務省が公表している「AI事業者ガイドライン」なども参考にしながら、定期的にルールを更新していきましょう。
ここまでの5点をA4用紙1〜2枚にまとめたら、弁護士に確認してもらいます。伝えるべき情報は、使っている(使いたい)ツール、業務での使い道、扱う情報の種類、取引先との契約でのAIの扱いなどです。自社の実際の使い方を共有するほど、現実に合ったアドバイスが得られます。
たとえば、「営業メールの下書きにだけ使う」「社内の議事録の要約にだけ使う」のように、用途を絞った形でスタートし、運用しながら範囲を広げていくやり方も現実的です。最初から全社員に自由に使わせるより、小さく始めて、困りごとを集めながらルールを育てるほうが、定着しやすくなります。
まとめ
生成AIの社内ルールで押さえたいのは、入力してよい情報の線引き、使うツールと契約条件、出力の確認、著作権など他人の権利、そして責任分担と事故時の動き方の5つです。禁止一辺倒ではなく、安心して使える範囲を決めることが、活用への近道になります。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。



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