目次
1. 「削除」と「開示」は目的が違う
2. 比較表で見る対処法
3. 最初の一手は「証拠を残す」こと
4. 削除請求を比べる:任意の申出と仮処分
5. 発信者情報開示請求の進み方
6. 特定したあとにできること
7. 会社として先にできる備え
8. まとめ
9. 合わせて読みたい
自社の名前で検索したら、根拠のない悪口が書き込まれていた。従業員への中傷がSNSに拡散している。経営者にとって、ネットの誹謗中傷は「放っておけない、でもどう動けばいいかわからない」問題です。実は、対処の道すじは決まっています。大きく分けると、書き込みを消してもらう「削除」と、書いた人を特定する「開示」の2本立てです。2025年4月には、プロバイダ責任制限法が改正されて情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)になり、プラットフォーム側の対応にも新しいルールが加わりました。この記事では、削除請求(任意の申出と仮処分)と発信者情報開示請求を比べながら、全体像をつかんでいきましょう。
「削除」と「開示」は目的が違う
まず整理したいのは、2つの手続きの違いです。
- 削除:書き込みを見えなくする。被害の拡大を止めるのが目的
- 開示:書き込みをした人の情報(IPアドレス、氏名、住所など)を明らかにする。責任追及の前提
多くの場合、削除を急ぎつつ、並行して開示に必要な準備を進めるのが基本の動きです。削除だけして終わらせると、同じ人が別の名前でまた書き込むことがあります。反対に、開示を目指すなら、書き込みが消える前に必要な情報を確保しておかなければなりません。
どちらを優先するかは、被害の大きさ、書き込みの内容、会社の方針によって変わります。
比較表で見る対処法
まずは全体像を表で比べます。
| 比較項目 | 削除請求(任意の申出) | 削除請求(仮処分) | 発信者情報開示請求 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 書き込みを消し、被害の拡大を止める | 書き込みを消し、被害の拡大を止める | 書いた人を特定し、責任追及の前提を作る |
| 申し出る相手 | サイトやSNSの運営 | 裁判所を通じた手続き | サイトの運営者と、接続先のプロバイダ(通信会社) |
| 進み方 | 権利侵害の申告フォームなどから申し出る。大規模プラットフォームは調査し、原則として申出から7日以内に結果を通知 | 運営が応じない場合や、緊急性が高い場合に検討する | 運営者への開示、プロバイダへの開示という2段階。裁判所の非訟手続も使える |
| 効果 | 削除されれば、それ以上の拡散を止められる | 裁判所の判断を背景に削除を求められる | 特定できれば、損害賠償請求や示談交渉、刑事告訴へ進める |
| 注意点 | 申し出れば必ず削除されるわけではない | 権利侵害にあたるかの判断が必要で、弁護士の力が頼りになる | ログは一定期間しか保存されない。権利侵害が明らかであることなどの要件がある |

削除と開示は、どちらか一方を選ぶものではありません。消すための手続きと、特定するための手続きを並行して準備するのが基本です。
最初の一手は「証拠を残す」こと
何より先に行いたいのは、証拠の保存です。書き込みは、投稿者が消したり、運営に削除されたりして、突然見えなくなることがあります。
- 該当ページのURL
- 書き込みが見える画面のスクリーンショット(日時、投稿者名、本文が分かるもの)
- 投稿者のアカウントのページや、関連する書き込み
- 閲覧した日時のメモ
スクリーンショットは、ページ全体が分かる形で、複数枚撮っておきます。弁護士に相談するときも、この証拠がそろっていると話が早く進みます。
また、書き込みをした人のログ(通信の記録)は、プロバイダ側で一定期間しか保存されないとされています。期間は事業者によって異なるものの、数か月程度で消えることもあると言われるため、開示を考えるなら、早めに動くのが鉄則です。
削除請求を比べる:任意の申出と仮処分
削除の方法は、主に次の2つです。
1つ目は、サイトやSNSの運営への「削除申出」です。多くのサービスには、権利侵害の申告フォームがあります。ここに、どの投稿が、どの権利(名誉やプライバシーなど)をどう侵害しているのかを、具体的に書いて送ります。
情プラ法では、利用者数の多い大規模プラットフォーム事業者に、次のような義務が課されました(2025年4月1日施行)。
- 削除申出の受付方法を公表し、申出しやすい窓口を設けること
- 申出を受けたら調査を行い、結果を申出者に通知すること(原則として申出から7日以内)
- 削除の基準を公表し、運用状況を透明にすること
これで申出がしやすくなりましたが、申し出れば必ず削除される、というわけではありません。基準に照らして、削除しないという判断になることもあります。
2つ目は、裁判所を通じた手続き(仮処分など)です。運営が応じない場合や、緊急性が高い場合に検討します。ここは、書き込みが権利侵害にあたるかの判断が必要になるため、弁護士の力が頼りになります。任意の申出が「まず運営に求める」進め方、仮処分が「裁判所の判断を背景に進める」進め方、と捉えると違いが見えてきます。
発信者情報開示請求の進み方
書き込みをした人を特定するには、一般に2つの段階を踏みます。
- 第1段階:サイトの運営者に対して、投稿時のIPアドレスなどの開示を求める
- 第2段階:そのIPアドレスから分かった接続先のプロバイダ(通信会社)に対して、契約者の氏名・住所の開示を求める
2022年10月からは、裁判所の非訟手続(発信者情報開示命令)という新しい制度も使えるようになりました。サイト運営者とプロバイダへの申立てを、1つの流れで進めやすくする仕組みで、通信会社への情報提供を求める「提供命令」や、ログの消去を禁じる「消去禁止命令」も用意されています。
また、SNSのようなログイン型のサービスでは、投稿時のIPアドレスが残っていない場合があります。そこで、ログイン時の情報も開示の対象に加わりました。
ただし、開示が認められるには、権利が侵害されたことが明らかであることなど、法律上の要件を満たす必要があります。単なる批判や、事実にもとづく論評は、開示が認められにくい点にも注意が必要です。
たとえば、口コミサイトの低評価や「対応が遅かった」といった感想は、たとえ耳が痛くても、事実にもとづく意見として扱われやすい部類です。一方で、「あの会社は詐欺をしている」のように、根拠のない事実を断定して社会的な評価を下げる書き込みや、人格を攻撃する言葉の羅列は、権利侵害と判断される可能性が高まります。「事実の指摘か」「意見や感想か」「人格攻撃か」を見分けるだけでも、動くべきかどうかの判断材料になります。
開示までの手続きは、数か月以上かかることも珍しくありません。費用や見通しについては、依頼前に弁護士へ具体的に確認しておくと安心です。どの進め方が自社に合うか迷うときは、コミッターズまでお気軽にご相談ください。
特定したあとにできること
投稿者が分かったあとの選択肢は、次のとおりです。
- 損害賠償請求:精神的苦痛や、信用低下・売上減少などによる損害の賠償を求める
- 謝罪や削除、再発防止の約束を求める示談交渉
- 刑事告訴:名誉毀損罪(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)、侮辱罪(1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料)などの対象になりうる
侮辱罪は、2022年に法定刑が引き上げられています。
時間にも注意が必要です。不法行為による損害賠償請求は、損害と加害者を知ったときから3年で時効にかかります(民法724条)。開示請求を進めていると時間がかかりやすいため、全体のスケジュールを意識しておきましょう。
会社として先にできる備え
被害に遭ってから慌てないよう、平時の準備も大切です。
- 検索やSNSでの自社名の定期的なチェック
- 被害を見つけたときの社内の連絡ルート(誰が、どこに報告するか)
- 従業員が標的になった場合の相談窓口と保護の方針
- 弁護士に頼むときの費用と範囲の目安を事前に確認しておくこと
反論をネットに書き込むことは、慎重に判断してください。感情的な反論は、火に油を注ぐことがあり、かえって証拠として不利に働く場合もあります。
まとめ
ネットの誹謗中傷への対処は、証拠の保存、削除請求、発信者情報の開示、責任追及という順番で進みます。削除請求には任意の申出と仮処分があり、発信者情報開示請求は運営者とプロバイダへの2段階で進みます。削除と開示は目的が違うため、並行して準備すること、ログが消える前に動くことがポイントです。情プラ法で、大規模プラットフォームの対応は以前より整いつつありますが、個別の判断は欠かせません。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。
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