目次
- 揉めやすい4つのパターン
- 話し合いのルールを知っておく
- 遺言があっても安心とは限らない
- 元気なうちにできる予防策
- 話がまとまらないとき、その先は?
- 家族の話し合いを進めるコツ
- 不動産と会社は「分けにくい」
- 司法書士に頼れる場面
- まとめ
「うちは仲がいいから、相続で揉めるなんてありえない」。そう思っている家庭ほど、いざというとき意外な場所でつまずくものです。遺産の額が大きいかどうかより、「家族の気持ち」と「遺産の中身」が噛み合わないことが、揉める引き金になります。この記事では、よくあるパターンを整理しながら、元気なうちにできる予防策を紹介します。経営者や不動産をお持ちの方は、ぜひ自分のケースに置き換えて読んでみてください。
揉めやすい4つのパターン
実際の相続では、次のような状況が火種になりやすいと言われます。
- 遺産のほとんどが不動産:現金が少ないと、きれいに分けられない
- 親と同居・介護した子としていない子:貢献と取り分の考え方が違う
- 生前に多くもらった人がいる:「あの子だけ援助を受けていた」という不満
- 相続人どうしの関係が薄い、または複雑:連絡が取りにくく、話し合いが進まない
どれも、誰かが悪いわけではありません。「公平」の感覚が人によって違うことが、根っこにあります。
話し合いのルールを知っておく
遺産分割は、民法907条のとおり、相続人全員の協議で行うのが基本です。協議が調わないときは、各相続人が家庭裁判所に分割を請求できます。つまり、誰か一人でも納得しなければ、協議はまとまりません。
また、法律には、不公平を調整する考え方もあります。
- 特別受益:生前に多額の贈与を受けた人は、その分を考慮して取り分が調整される(民法903条)
- 特別寄与料:相続人ではない親族(たとえば長男の妻)が、無償で介護などを行って財産の維持や増加に貢献したときは、相続人に金銭を請求できる(民法1050条)
ただし、これらを主張するには、事実を示す資料が必要になることが多く、あとからの立証は簡単ではありません。
遺言があっても安心とは限らない
「遺言を書いておけば揉めない」というのは、半分正解で半分不正解です。遺言は有力な備えですが、内容によっては、別の火種になることもあります。
その代表が遺留分です。兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の取り分が保障されています。直系尊属だけが相続人なら遺産の3分の1、それ以外の場合は2分の1が、遺留分全体の割合です(民法1042条)。遺言で特定の人にすべて渡す内容にしても、遺留分を持つ人は、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法1046条)。
この請求権には期限もあり、侵害を知った時から1年、または相続開始から10年で消滅します(民法1048条)。とはいえ、請求する・されるという関係になること自体が、家族にとって大きなストレスです。遺言を書くなら、遺留分にも目配りした設計にしておくと安心です。
元気なうちにできる予防策
予防のカギは、「早めに」「見える形で」「家族と共有して」進めることです。
- 財産の一覧をつくる:不動産、預貯金、株式、借入金などを書き出し、更新していく
- 遺言を作る:自筆証書遺言か、公正証書遺言かを選ぶ(公正証書は公証人が関与する形式)
- 「付言事項」を添える:なぜその分け方にしたのか、家族への気持ちを遺言に書き添える
- 家族で一度は話す:全部を決めなくても、「誰が何を大事にしているか」を共有しておく
- 生前の対策を検討する:生前贈与や家族信託など、財産の動かし方を準備する
とくに、遺言の付言事項は法的な効力を持たない部分ですが、気持ちを伝えることで、納得感を高められることがあります。
話がまとまらないとき、その先は?
協議で決着しないと、家庭裁判所での手続きに進みます。まず調停で、調停委員を交えて話し合い、それでもまとまらなければ審判で、裁判所が分け方を判断する、という流れが一般的です。時間も気力もかかるうえ、一度こじれた関係は戻りにくいものです。
だからこそ、揉めた後の解決より、揉める前の整理に力を入れたいところです。
家族の話し合いを進めるコツ
「相続の話は縁起でもない」と切り出しにくい方も多いはずです。そんなときは、次のような入り口が使えます。
- 「自分の気持ちの整理のために聞いてほしい」と、自分の話から始める
- お正月やお盆など、家族がそろう機会に、短い時間で触れる
- 結論を出そうとせず、「誰がどこに住みたいか」「何を大事にしたいか」を聞くだけで終える
最初から財産の分け方を決めようとすると、構えてしまう人もいます。小さく始めて、少しずつ続けるのがコツです。
不動産と会社は「分けにくい」
とくに悩ましいのが、不動産と、会社の株式です。不動産は物理的に切り分けられず、会社の株式は、分散すると経営の意思決定が難しくなります。
そこで、次のような工夫が考えられます。
- 不動産は、誰が住むか、売って現金で分けるか、一人が取得して他の人にお金を渡すか、方向性を先に決める
- 経営している会社の株は、後継者に集中させ、他の相続人には別の財産で調整する
- 相続人が複数になる不動産は、共有のまま放置せず、名義を整理しておく
共有名義の不動産は、のちのち売却や活用の際に全員の同意が必要になり、動きにくくなります。「とりあえず共有にしておこう」は、先送りの種になりがちです。
合わせて読みたい:株主トラブルを避ける:株式を分散させない仕組みづくり
司法書士に頼れる場面
司法書士は、登記や、法務局・裁判所に出す書類の作成を扱う専門家です。揉めないための準備では、次のような場面で力になります。
- 遺言書の作成を検討する際の、書類面でのサポート
- 遺産分割協議書の作成と、それに基づく不動産の名義変更(相続登記)
- 相続人の調査(戸籍の収集)や、家系図の整理
ただし、すでに相続人どうしで争いがあり、交渉が必要な場面は、弁護士の領域になります。揉める前なら司法書士、揉めてからなら弁護士という大まかな線引きを知っておくと、相談先で迷いません。
まとめ
遺産分割で揉める原因は、金額の多さより、「分けにくい財産」「不公平感」「話し合いの不足」にあることが多いものです。遺言、財産の一覧づくり、家族との対話を、元気なうちから少しずつ進めていくことが、いちばんの予防策になります。
個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(司法書士や弁護士)に確認してください。


