単純承認・限定承認・相続放棄を比べる:借金の引き継ぎと3か月の期限

単純承認・限定承認・相続放棄を比べる:借金の引き継ぎと3か月の期限

目次

  1. 相続には3つの選び方がある
  2. 3つの選び方を比べる
  3. 期限は「知った時」から3か月
  4. 相続放棄の手続きと注意点
  5. 限定承認は何が難しい?
  6. 3か月で何を調べる?
  7. 3か月を過ぎてしまったら
  8. 家族で先にそろえておくこと
  9. 司法書士に頼めること
  10. まとめ

親族が亡くなったあと、「どうやら借金もあったらしい」と分かって、頭が真っ白になる。そんな場面は、決して珍しい話ではありません。大事なのは、焦って動く前に「相続には3つの選び方があり、考える時間には期限がある」と知っておくこと。この記事では、単純承認・限定承認・相続放棄の3つを表で比べて、期限の考え方と手続きの入口を、事業を営む方の目線も交えて整理します。

相続には3つの選び方がある

相続人は、亡くなった方(被相続人)の財産を引き継ぐかどうかを、次の3つから選びます。

  • 単純承認:プラスの財産もマイナスの財産も、すべて引き継ぐ
  • 相続放棄:最初から相続人ではなかったことになり、何も引き継がない
  • 限定承認:プラスの財産の範囲内でだけ、借金などを引き継ぐ

何もしないで期間が過ぎると、自動的に単純承認になります。つまり「放っておく」ことも一つの選択になってしまうのが、ここの怖いところです。

3つの選び方を比べる

3つの違いを、表にまとめます。

比較項目 単純承認 限定承認 相続放棄
借金を引き継ぐか プラスの財産も借金も、すべて引き継ぐ プラスの財産の範囲内でのみ引き継ぐ 引き継がない(最初から相続人ではなかったことになる)
期限 3か月以内に相続放棄・限定承認をしなければ、単純承認をしたことになる 相続の開始を知った時から3か月以内 相続の開始を知った時から3か月以内
手続き先 特別の手続きはしなくてよい 家庭裁判所へ、相続人全員で財産の目録を提出して申述する 家庭裁判所へ申述する
向いているケース プラスの財産が明らかに多いとき 財産がプラスかマイナスか読めないとき 借金が明らかに多いとき
単純承認・限定承認・相続放棄の比較:借金の引き継ぎと期限

期限は「知った時」から3か月

民法915条は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、承認か放棄かを決めると定めています。この3か月は「熟慮期間」と呼ばれます。

ポイントは、起算点が「亡くなった日」ではなく「相続が始まったと知った日」であることです。ただし、「知った日」がいつかは事情によって判断が分かれることがあるため、自己判断で「まだ大丈夫」と決め込むのは危険です。

調査してもなお判断がつかないときは、家庭裁判所に申し立てて、この期間を伸ばしてもらう方法があります。裁判所の案内では、申立ては被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、3か月以内に行うこととされています。伸ばすかどうかは裁判所が判断するので、期限ぎりぎりではなく、早めの相談が安心です。

相続人が未成年の場合などは、法定代理人が知った時から数える、という特別な扱いもあります。

相続放棄の手続きと注意点

相続放棄は、家庭裁判所に「申述」(申し出ること)をして初めて成立します。家族に「放棄するよ」と伝えただけでは、法的な放棄にはなりません。

注意したいのは、放棄の前後にやってしまうと「単純承認した」とみなされるおそれのある行動です。民法921条は、相続財産の全部または一部を処分したときなどを、法定単純承認としています。たとえば、故人の預金を引き出して使う、財産を売る、といった行為が典型です。一方、葬儀費用の扱いなど、判断が分かれる場面もあります。迷ったら、手をつける前に専門家へ確認しておくと安心です。

また、放棄をすると、次の順位の人(たとえば兄弟姉妹など)に相続権が移ることがあります。家族内で「自分は放棄するので、次の人にも一声かけておく」と、あとのトラブルを防げます。

限定承認は何が難しい?

限定承認は、「財産がプラスかマイナスか読めない」ときの保険のような選択肢です。ただ、実際に使われる場面は多くありません。理由は、手続きがやや重いからです。

  • 相続人全員が共同して行う必要がある(一人だけの限定承認は不可)
  • 3か月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述する(民法924条)
  • 申述後は、債権者への公告など、財産を清算する手続きが続く

こうした負担から、「まず財産を調べ、明らかにマイナスなら放棄」「明らかにプラスなら承認」という整理になることが多く、限定承認は例外的な選択肢と考えておくのが現実的です。

3か月で何を調べる?

熟慮期間のあいだは、財産の調査ができます(民法915条2項)。調べておきたいのは、たとえば次のようなものです。

  • 預貯金、不動産、株式などのプラスの財産
  • 借入金、保証債務、未払いの税金などのマイナスの財産
  • 故人が経営者だった場合は、会社への貸付・会社の借入の保証、個人事業の取引先や契約

とくに事業をしていた方の場合、個人としての保証債務が表に出にくいことがあります。郵便物や通帳、契約書の束から手がかりを探し、必要に応じて金融機関に確認するのが基本です。信用情報機関に開示を求める方法などもあるので、専門家に相談すると探し方が見えてきます。

調査で遺産を扱う際は、「処分」にあたる行動を避けること。調べるのは良くても、使ったり売ったりするのは別問題です。

3か月を過ぎてしまったら

「借金があるなんて、まったく知らなかった」というケースでは、期限の扱いが問題になります。裁判例には、相続財産がまったくないと信じていて、そう信じるにつき相当な理由があった場合に、例外的に期間の起算点を後ろにずらして考えるものがあります。ただし、これは例外です。認められるかどうかは個別の事情で決まり、「あとから申し出れば大丈夫」と考えて放置するのは禁物です。

たとえば、数年後に債権者から督促状が届いて初めて借金を知った、という場面を想定してみましょう。その場合でも、届いた通知を捨てず、日付と内容を記録して、早めに専門家に見せることが大切です。時間がたつほど、事情を説明する資料も集めにくくなります。

家族で先にそろえておくこと

期限が3か月と短いからこそ、動き出しの段取りが物を言います。次のような準備を、最初の1か月で進めておくと安心です。

  • 相続人が誰かを確認する(戸籍をたどって、全員を把握する)
  • 連絡先をそろえ、「誰がどの手続きを担当するか」を決める
  • 故人宛ての郵便物や通帳、契約書類をひとまとめにして保管する
  • 事業用の取引先や、保証をしていた可能性がある金融機関をリストにする

とくに戸籍の収集は、思った以上に時間がかかります。相続人が遠方にいたり、連絡が取りにくかったりすると、さらに日数が必要です。期限から逆算して、早めに戸籍を取り始めるだけで、選択肢を残しやすくなります。

司法書士に頼めること

相続放棄の申述書などは、裁判所に出す書類です。司法書士は、裁判所に提出する書類の作成を、依頼を受けて行えます(司法書士法3条)。戸籍の収集や、申述書の作成、スケジュールの管理などを任せられるので、期限が気になる方には心強い存在です。

ただし、放棄するかどうかの最終判断は本人です。また、債権者とのやり取りが紛争になった場合などは、弁護士の領域になることもあります。

不動産を相続して承認する場合は、その後の相続登記(原則、取得を知った日から3年以内の申請義務)も待っています。選択と手続きの順番を整理しておくと、あわてずに済みます。財産の調べ方や期限の数え方に迷うときは、コミッターズまでお気軽にご相談ください。

借金が多く返済が難しい場合の法的な整理は、弁護士の記事でも取り上げています。

合わせて読みたい:私的整理・民事再生・破産を比べる:事業を続ける道、整理する道

まとめ

相続は、3か月の熟慮期間のあいだに「単純承認・相続放棄・限定承認」から選ぶのが基本です。判断がつかないときは、期間を伸ばす申立てという方法もあります。まず財産をていねいに調べ、財産に手をつける前に、期限と手続きの順番を確認しておきましょう。

相続の全体像をやさしく整理した記事は、ウハウハ高等学校でも紹介しています。

個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(司法書士や弁護士)に確認してください。

3つの選び方の違い:引き継ぐ範囲・手続き・相続人

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