目次
1. 英文契約を前にして、まず心がけること
2. ①準拠法と紛争解決
3. ②損害賠償の上限
4. ③契約期間と解除のしかた
5. ④完全合意と変更のルール
6. ⑤言語と正文
7. まとめ
海外の取引先から、英語で書かれた契約書が送られてきた。「長いし、法律用語ばかりで読む気になれない」と、つい相手のひな形のままサインしてしまいたくなるものです。でも、トラブルが起きたときに頼れるのは、その契約書だけ。しかも海外が相手だと、日本の常識がそのまま通じないことも多いのです。全部を完璧に読めなくても、ここだけは必ず目を通したい5か所を、順番にご紹介します。
英文契約を前にして、まず心がけること
英文契約は、日本語の契約書より長く、細かく書かれる傾向があります。口約束や「まあ、お互い様」という空気に頼らず、起こりうることを先回りして文書に書いておく文化が背景にあるからです。
そのため、日本の契約書なら「誠意をもって協議する」で済ませる場面でも、英文契約では具体的な条件が定められています。逆にいえば、書いていないことは、相手に主張しづらいということです。
まず、契約書の全文を機械翻訳などで日本語にして、ざっくり内容をつかんでから、以下の5か所を重点的に確認していきましょう。翻訳ツールは便利ですが、法律上の意味合いまで正確に伝わるとは限らないので、重要な部分は専門家に確認してください。
①準拠法と紛争解決
最初に見たいのが、どこの国の法律で解釈するか(準拠法)と、どこで争うか(裁判管轄・仲裁)です。
たとえば、準拠法が相手国の法律で、管轄が相手国の裁判所なら、トラブルのたびに現地の弁護士を探し、現地で手続きをすることになります。これは費用も時間も大きな負担です。交渉では、日本法・日本の裁判所、または第三国の仲裁といった落としどころを探ることになります。
また、外国の裁判所の判決は、別の国で強制執行するために追加の手続きが必要になることが多いといわれます。一方、仲裁判断は、多くの国が加盟する条約の枠組みで執行しやすい傾向があるため、国際取引では仲裁が選ばれることがよくあります。日本商事仲裁協会など、国内にも仲裁機関があります。
物品の国際売買では、ウィーン売買条約(CISG)が、当事者が排除しない限り適用される場合があります(日本は2009年に加入)。使うのか排除するのかを意識して、契約書に書いておきましょう。
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②損害賠償の上限
次に確認したいのが、責任の範囲を制限する条項です。英文契約では、Limitation of Liability(責任制限)という名前で出てきます。
ここでは、主に次の3点を見ます。
- 賠償額に上限が設けられているか(取引代金の範囲内、など)
- 間接的な損害(逸失利益など)を免責するとされているか
- 上限がどちらの当事者にも適用されるか
相手に有利な条項だけが入っていると、自社に重大なミスがあったときの責任は重いのに、相手が起こした損害は十分に請求できない、という不均衡が生まれます。双方向(お互いさま)になっているかに注目しましょう。
また、秘密情報の漏えいや知的財産権の侵害など、上限の対象外にする例外を設けるかどうかも、大事な交渉ポイントです。
契約書の雛形を使いまわすと、相手国の事情に合わない条項が混ざることもあります。自社の取引に本当に必要な内容かという視点で、一つひとつ読むクセをつけると、見落としが減ります。
③契約期間と解除のしかた
3つ目は、いつまで続き、どうやって終わらせるかです。英文契約では、Term(期間)とTermination(終了・解除)という見出しで書かれています。
特に注意したいのは、次のような点です。
- 期間が終わったとき、自動的に更新されるのか
- 更新を止めるには、何日前までに通知が必要か
- 理由なく途中で解約できる(Termination for convenience)のか
- 相手の契約違反があったとき、是正の猶予期間を置いて解除できるのか
自動更新の条項を見落とすと、「やめたいのに、気づいたら1年延びていた」ということも起こりえます。通知の期限は、カレンダーに入れておくのが確実です。また、契約が終わった後も、在庫や代金の精算、秘密保持など、続く義務がないかも確認しましょう。
④完全合意と変更のルール
4つ目は、契約の最後のほうにまとめて置かれる、一般条項です。見落とされやすいですが、トラブルのときに効いてきます。
代表的なのが完全合意条項(Entire Agreement)です。「この契約書が当事者の合意のすべてであり、それ以前のやりとりは効力を持たない」という内容です。これがあると、営業担当者が口頭やメールで約束した内容が、契約書に書かれていなければ、あとから主張しにくくなります。
また、変更のルールも重要です。「契約の変更は、双方が署名した書面でのみ有効」と書かれていることが多く、メールだけで条件を変えたつもりでも、効力が認められないことがあります。
もし商談の中で出た約束があるなら、契約書の本文や別紙に書き込んでもらいましょう。
⑤言語と正文
最後は、言語(Language)の条項です。契約書を英語と日本語の両方で作る場合に、どちらを正文(正式な版)とするかを定めるものです。
「英語版と日本語版で食い違ったとき、どちらが優先されるのか」が決まっていないと、解釈をめぐって争いになりかねません。一般には、英語版を正文とする契約が多いのですが、日本語版を読んで安心していると、実際には英語版の内容で判断されてしまう、ということがありえます。
もうひとつ、通知を送る方法や宛先、使う通貨、支払い方法といった事務的な条項も、あとから困りやすい項目です。通知先が古い住所のままで、肝心の連絡が届いていなかった、ということのないようにしましょう。
5か所を確認したうえで、英文契約のチェックを弁護士に頼むなら、サインのかなり前、条件の交渉に入る段階がおすすめです。契約書が最終版になってからでは、修正の依頼がしにくくなるためです。
依頼するときは、取引の全体像(何を、どの国と、いくらくらいの規模で)と、譲れない条件を伝えると、見るべき条項に優先順位がつけられます。また、相手が提示してきた雛形だけでなく、これまでのメールのやりとりも一緒に見せておくと、書き漏れや食い違いに気づきやすくなります。
まとめ
英文契約で見落としやすいのは、準拠法と紛争解決、損害賠償の上限、期間と解除、完全合意と変更、言語と正文の5か所です。全部を読み込めなくても、まずここを確認し、相手の雛形のままサインしないことが大切です。取引額が大きい契約や、長く続く契約は、サインの前に専門家に見てもらいましょう。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。


