目次
1. 在職中の副業は、原則どう考える?
2. 副業を認めるときのルールづくり
3. 退職後の競業避止は、もっと慎重に
4. 有効かどうかを見るポイント
5. 競業避止より先にやるべきこと
6. 誓約書を取るときの注意
7. まとめ
「副業を認めたら、うちの仕事がおろそかにならないか」「辞めた社員が同業に転職して、顧客を持っていかれたらどうしよう」。人手の流動化が進むなか、経営者から聞かれることの多い悩みです。そこで、就業規則や誓約書でしっかり縛っておきたくなりますが、何でも禁止できるわけではありません。会社の利益と、働く人の自由のバランスはどこにあるのか。在職中の副業と、退職後の競業避止に分けて整理します。
在職中の副業は、原則どう考える?
まず在職中の話です。副業と一口にいっても、他社で雇われる、業務委託で請ける、自分で事業を始める、不動産の賃貸収入を得るなど、形はさまざまで、会社に与える影響も違います。就業時間外にどう過ごすかは、基本的には働く人の自由です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、就業規則で原則として副業・兼業を認め、例外的に制限するという考え方が示されています。
会社が副業を禁止または制限できるのは、次のようなケースだとされています。
- 副業で疲れがたまり、本業に支障が出るなど、安全への配慮ができなくなる場合
- 会社の秘密が漏れるおそれがある場合
- 会社と競合する仕事で、競業になる場合
- 会社の名誉や信頼を損なうなど、誠実さに反する場合
つまり、「うちは副業禁止」と一律に決めるよりも、どんな場合に制限するのかを具体的に定めておくほうが、実態に合っています。
副業を認めるときのルールづくり
副業を認める場合、トラブルを防ぐためのルールを決めておきましょう。ガイドラインでも、届出制など、副業の有無と内容を確認できる仕組みを設けておくことが望ましいとされています。
ルールに盛り込みたい項目は、次のとおりです。
- 副業を始める前の届出(または許可)と、その内容(会社名、仕事内容、時間など)
- 会社の営業秘密や顧客情報を、副業先で使わない約束
- 競合する会社での副業は認めない、という範囲
- 副業が本業に悪影響を及ぼしたときの見直し
また、副業先が雇用契約の場合は、労働時間の通算という大事な論点があります。労働基準法では、事業主が異なっても、労働時間を通算して管理するルールがあります。ガイドラインでは、通算した後の労働時間を踏まえて、法定の時間外労働の上限などを守る必要があるとされています。一方、副業先が業務委託などで労働基準法の労働時間規制の対象とならない場合には、通算はしません。
合わせて読みたい:副業ルールの型を比べる:許可制・届出制・自由
副業を認めるかどうかは、人材の確保という面でも大切な判断です。新しいスキルや人脈が本業に生きたり、副業を認めることが採用の魅力になったりするケースも想定されます。一方で、経営者としては、認めるときの「線」をあらかじめ文書にしておくことが、従業員にとっても会社にとっても安心につながります。
退職後の競業避止は、もっと慎重に
次に退職後の話です。会社を辞めた人が、同業の会社に転職したり、独立したりすることを制限する約束を、競業避止義務といいます。在職中と違い、退職後は労働契約が終わっているため、会社が縛れる範囲はぐっと狭くなります。
背景には、憲法が定める職業選択の自由があります。会社を辞めた人が、自分の経験を生かして働く自由は、簡単には奪えないのです。そのため、「退職後は1年間、同業への転職を禁止する」といった条項があっても、無条件で有効になるとは限りません。
有効かどうかを見るポイント
裁判では、競業避止の約束が有効かどうかを、いくつかの事情を総合して判断するとされています。主な着目点は次のとおりです。
- 守りたい会社の利益:営業秘密やノウハウなど、守るに値する理由があるか
- 従業員の立場:その人が、会社の重要な情報に触れる地位にあったか
- 期間と地域:長すぎたり、範囲が広すぎたりしないか
- 禁止する範囲:同業すべてではなく、必要な範囲にとどまっているか
- 代償措置:制限の見返りとして、手当や待遇が用意されているか
たとえば、「全国どこでも、同じ業界なら何年でもダメ」といった広すぎる約束は、認められにくくなります。会社が本当に守りたいものは何かを絞って、必要最小限の範囲で定めるのが基本です。
競業避止より先にやるべきこと
退職後の競業を縛ろうとする前に、まず取り組みたいのは、守りたい情報の管理です。
- 顧客リストや技術情報を、アクセス権限を決めて管理する
- 秘密として管理していることを、社内に周知する
- 入社時・退社時に、秘密保持の誓約書を交わす
不正競争防止法では、一定の条件を満たす営業秘密を不正に使う行為が規制されています。秘密として管理されていることが前提なので、情報の管理があいまいだと、法律の保護も受けにくくなります。競業を禁止するより、秘密保持の約束とセットで整えるほうが、実効性が高いといえます。
合わせて読みたい:ノウハウの守り方を比べる:営業秘密と特許
なお、退職後に会社の顧客に接触してはいけない、という約束(顧客の引き抜き禁止)も、競業避止とよく似た扱いになります。営業担当者が持つ顧客との関係は、会社の財産であると同時に、本人の経験でもあります。どこまでが会社の守るべき利益かを、日ごろから整理しておくことが大切です。
誓約書を取るときの注意
退職時に誓約書へのサインを求める会社もありますが、いくつか気をつけたい点があります。
- サインを無理強いしない:強要すれば、あとで無効を主張されかねません。
- 内容を具体的にする:どの情報を使ってはいけないのかを明確にします。
- 退職金の減額などの条件は慎重に:就業規則に根拠がなく、一方的に減らすのは問題になりえます。
また、入社時の誓約書や就業規則に、あらかじめ秘密保持や競業の取り扱いを書いておくと、退職時に慌てずに済みます。ただし、どんな内容でも書けばよいというわけではないため、弁護士や社会保険労務士に文面を確認してもらうと安心です。
まとめ
在職中の副業は、原則を認めつつ、秘密・競業・本業への支障がある場合に制限するのが基本です。退職後の競業避止は、職業選択の自由との兼ね合いで、期間・地域・範囲・代償措置などを総合して有効性が判断されます。まずは情報管理と秘密保持の約束から整えましょう。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(弁護士)に確認してください。



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