事業承継で株を移すときの登記と名義書換

事業承継で株を移すときの登記と名義書換

目次

  1. 株主は登記簿に載りません
  2. 株を移すときの基本の流れ
  3. 名義書換をしないと何が起きる?
  4. 相続で株が移る場合
  5. 登記が必要になる場面
  6. 税金の入口と制度の確認
  7. まとめ

「そろそろ会社を息子に譲りたい。株を渡せば、登記も変えるんですよね?」。事業承継の相談で、よく聞かれる質問です。実は、ここに大きな誤解があります。株式を後継者に移しても、法務局の登記簿は変わりません。変わるのは、会社の中にある「株主名簿」です。一方で、承継のタイミングで、登記が必要になる場面は別にあります。この記事では、株を移す手続きと、登記が必要になる場面を整理します。

株主は登記簿に載りません

まず前提です。株式会社の登記簿には、取締役や代表取締役の名前、資本金、発行済株式の総数などが載ります。けれど、誰がどれだけ株を持っているか(株主)は、登記事項ではありません。

株主を管理しているのは、会社自身が作る「株主名簿」です。そのため、株を譲っても、法務局で名義を書き換える手続きはありません。会社の中で、名簿を書き換えることになります。

この区別を知らないと、「株を移したから登記は済んだ」「代表者を替えたから株の手続きも終わった」といった勘違いが起こります。株の移転と、役員の登記は、まったく別の手続きです。

株を移すときの基本の流れ

非上場の中小企業で、株を後継者に移す手続きは、次の順で進みます。

  1. 譲渡の契約を結ぶ:売買なら株式譲渡契約、無償なら贈与契約を交わします。
  2. 会社の承認を受ける:多くの中小企業は、定款で「株式の譲渡には会社の承認が必要」と定めています(譲渡制限)。この場合、会社に承認を請求し、承認を受けます。承認するかどうかを決めるのは、取締役会がある会社なら取締役会、ない会社なら株主総会が原則です(会社法139条)。承認が得られなかった場合は、会社自身や、会社が指定した買い手が、その株式を買い取る仕組みもあります。家族への承継では、承認が下りない場面はまれですが、承認の決議は議事録に残しておくのが基本です。
  3. 株主名簿を書き換える:株式を取得した人は、会社に対して、自分の名前を株主名簿に記載するよう請求できます(会社法133条)。
  4. 必要に応じて株券を渡す:株券を発行している会社なら、株券の交付も必要です。現在の会社法では、株券を発行しない会社が原則で、定款に定めがある会社だけが株券を発行します。自社が株券を発行しているかどうかは、定款や登記簿で確認できます。

名義書換のときに更新する株主名簿には、株主の氏名、住所、持っている株式の数などを記載します。名簿は会社の内部書類ですが、承継のたびに更新しておかないと、いざというときの証拠になりません。契約書、承認の議事録、更新した名簿の3点を、セットで保管しておきましょう。

名簿の書き換えは、株式を取得した人と、名簿に載っている元の株主が、共同で請求するのが原則です(会社法133条)。承認を受けていない譲渡制限株式は、名簿の書き換え請求が認められない点にも注意が必要です(会社法134条)。

名義書換をしないと何が起きる?

株式の譲渡は、取得した人の名前と住所を株主名簿に記載しなければ、会社や第三者に対抗できません(会社法130条)。つまり、名簿を書き換えないと、「自分が新しい株主だ」と主張しにくいのです。

承継の場面で名簿が古いまま放置されると、株主総会の招集や議決権の行使で、誰が株主なのか争いが起きかねません。「贈与のつもり」「譲渡のつもり」という口約束で済ませず、契約書と名簿の書き換えを、セットで残しておきましょう。

相続で株が移る場合

経営者が亡くなって、株が相続されるケースでは、扱いが少し異なります。譲渡制限株式でも、相続による取得には、会社の承認は不要とされています(会社法134条)。

ただし、遺産分割がまとまるまでは、株は相続人の共有状態になり、議決権の行使が難しくなる場面があります。会社によっては、定款に「相続人に株を売り渡すよう請求できる」という定めを置いて、株が散らばるのを防いでいます。社長の元気なうちに、株の行き先を決めておくことが、最大の備えです。

登記が必要になる場面

では、承継のなかで、登記が必要になるのはどんなときでしょうか。

  • 代表取締役が交代するとき:新しい代表者の就任と、前の代表者の退任の登記が必要です。変更から2週間以内に申請します(会社法915条)。新しい代表者を選ぶ方法は、取締役会の決議、取締役の互選、株主総会など、会社の形によって異なります。退任する人の辞任届や、就任する人の就任承諾書も必要になるため、世代交代の日程が決まったら、書類の準備を逆算して始めましょう。資本金1億円以下なら、登録免許税は1万円です(登録免許税法・別表第一)。
  • 発行済株式の総数が変わるとき:増資や株式の分割、自己株式の消却などで総数が変わると、変更登記が必要です。
  • 株式の内容を変えるとき:譲渡制限の定めや、種類株式(議決権や配当に差をつけた株)の発行を、定款で新たに決めた場合などです。

後継者が株を持つこと自体と、代表者を交代する登記は、別のタイミングで行うことが多くあります。株を先に渡して後から代表者を替える、あるいはその逆、といった段取りを、計画的に組みましょう。

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事業をバトンタッチする際の心構えや経営の考え方は、今日一日でも触れています。

税金の入口と制度の確認

株の移転には、税金の問題がついてきます。生前に贈与すれば贈与税、相続なら相続税の対象になり、株の評価額によっては負担が大きくなります。

この負担を和らげる仕組みとして、事業承継税制(特例措置)があります。中小企業庁の案内では、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで、株式の贈与・相続の適用期限が2027年12月31日までとされています。ただし、適用には細かい条件があり、承継前に計画を出す必要があります。期限が近づいているため、検討するなら早めの確認が必要です。

税額の計算や、制度を使えるかどうかの判断は、税理士の領域です。登記を扱う司法書士と、税理士とで、連携して進めるのが現実的です。

まとめ

株を後継者に移しても、登記簿は変わらず、書き換えるのは会社の株主名簿です。譲渡制限がある会社では、会社の承認を受けてから名簿を書き換えます。一方で、代表取締役の交代や、発行済株式の総数が変わる場面では、登記が必要です。事業承継税制には期限があるため、株の移転と登記と税金を、同時に計画することが大切です。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な判断は該当分野の専門家(司法書士)に確認してください。

株式移転の手続きの流れ:契約・会社の承認・名簿書換・登記の確認
株主名簿と登記簿の違い:管理する人・株主の名前・役員の交代・手続きの期限

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